5月19日 放牧酪農とメガファーム

北海道新聞、日曜日の総合面に毎週「対論」というコーナーがあります。
昨日は「放牧酪農とメガファーム」というテーマで二人の酪農家の話が出ていました。
 一人は、我々、中小企業家同友会農業経営部会のメンバーで豊頃町で四戸の酪農家が共同で立ち上げた(有)Jリードの代表井下英透さん、もう一人は当社の古くからの取引先であり、北海道放牧酪農ネットワーク副会長で浜頓別町で酪農経営を営んでいる池田邦雄さんです。
 池田さんは今から20年ほど前からNZ型の放牧酪農を日本で始めて取り入れた方で、その後、酪農業界で名誉ある「宇都宮賞」も受賞されています。
 いつもは様々なテーマや、そのときの時事問題についての賛成派や推進派の意見、片や反対派の意見の代表のような方が登場して意見をぶつけ合うのですが、今週は賛成、反対だけで考えて欲しくないと感じました。「対論」のテーマを設けた北海道新聞社の意図はどのようなものであるのか分かりませんが、もう少しそれぞれのお二人のことについて私の知っている事を書きます。

 井下さんはJリードを立ち上げる以前は豊頃町、長節というおよそ一般的な十勝のイメージとは離れた海のすぐ近くで牧草サイレージ主体で50頭ほどの搾乳牛をつなぎ飼いで飼っていました。(積算温度が上がらないためデントコーンが栽培できない地域)1頭当たり年間平均乳量では日本一(乳牛検定成績上)に輝いた事もあります。
 勉強熱心な方で、地元の馬鈴薯のでんぷん工場から出る「でんぷん粕」なども非常にうまく利用されていました。
 一方の池田さんは、実家が酪農を営んでいたのですが本人はトラックの運転手をしていて、記事にも書いてあったように父親の急死によって家業を継ぐようになり、借金返済のため井下さん同様に1頭当たりの平均乳量を高めることを目的に配合飼料の給与量を増やしたのですが、牛の病気や事故のため
 、結果的により多くの赤字を作ってしまいました。(後日談だったと思うのですが、もっとうまい飼料の給与の仕方をやっていいたら、そんなに赤字にはならなかったと言ってましたが。)
 これではいけないということで、町の商工会に入会し奥さんと二人で複式簿記の勉強を始め、商工業者などと交流するにつれ経営の感覚を磨いていきました。
 そしていろいろな人との出会いから世界で一番低コストの牛乳を生産しているニュージ-ランドの放牧酪農の事を知り、自分の地帯に合ったNZ型(単なるマネではない)をモデルとした放牧酪農を築き上げていきます。もちろん放牧酪農には立地条件(牛舎の周りに放牧に適した条件があること。)などはとても重要な要素ですが、果たして国の酪農政策はそのような方向で来ていたでしょうか?(余談ですが、最近注目されている足寄町の放牧酪農研究会はその主要なメンバーを、私の先代が十勝から浜頓別まで日帰りで視察に連れて行ったことがその始まりなんです。)
 
 お二人の経営の大きな違いは、放牧とメガファームだけではなく、家族経営と会社経営という違いもあります。
 家族経営にないとは言いませんが会社経営には会社としての社会的責任があります。Jリードさんの立ち上げに関しては莫大な国の補助金(税金)が投入されています。(家族経営であろうが法人経営であろうが農業には補助金が入っていますが。)もちろん規模を拡大させ、コストを下げる?もしくは井下さんも言っているように地域に仕事を作るといった地域政策(業者政策)といった国の政策的な側面もあるのでしょうが。(そこまで言える井下社長もスゴイ!)

 しかしながらそのような形態の経営を継続していくためには、そこには高乳量の牛を維持するための高エネルギーの輸入穀物が安定的且つ継続的にに入ってくるということと、国民の牛乳消費量が低下傾向の中、昨日まで存在しなかったメガファームの生乳を現在の一元集荷体制の中で生産したものを全て買い上げてくれるということが前提です。(現在の集荷体制の中においては大きな経営であろうが小さな経営であろうが買い取り単価も変わりません。)もちろんこれだけの規模の経営をしていくためには外部労働力も必要とするでしょうし、それに伴う人件費や労務管理などの経営マネジメント能力も経営者には要求されるでしょう。(糞尿処理にも莫大な費用がかかります。)

 長々と書いてしまいましたが、まだまだ書ききれないほどの事実が今週の「対論」の中にはたくさんあります。新聞やマスコミ報道などの表面的な記事に我々は騙されることなく、情報を読み解く、聞き解く、見解く力を養っていくことが大事です。

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